IFLA2012のセッション


 タンペレの図書館裏に停められていた移動図書館は、日本の移動図書館の3倍か4倍の大きさだった。

 さて、今回、私が顔を出したのは、寄ってみた順に、セッション95「図書館協会の戦略;今の新しい専門職を巻き込む」;セッション93「インフォメーション・リテラシーがEラーニングと出会う:相互のつながりと成果について話しましょう」;セッション105「国際・比較ライブラリアンシップ:有効で、意味のある、ほんものの研究と教育」、そして、学校図書館分科会が関わった、セッション118「友人か敵か:公共および学校図書館、賢いコミュニティを創造する変化へのひとつの力」;セッション160「驚きの図書館!:公共図書館、子どもとヤングアダルトのための図書館、学校図書館リソースセンター」です。最初のふたつ(セッション95、93)は、ちょっとずつ出たということもあり、情報としてはおもしろいものもあったけれど、私にとっては、刺激的な話があったという感じではなかったです。ただ、後者3つは、それぞれに、大変勉強になりました。
 国際・比較ライブラリアンシップのセッションは、図書館の理論と研究の部会、教育・訓練分科会と発展途上国でのLIS教育に特別の関心をもつ人たちのグループが合同で開いたのでしたが、発表は実証的な研究に基づいていると聞こえるものが多く、内容にもバラエティがあり、また質疑応答は厳しくも優しい対話の姿勢のものばかりで、成功だったと思います。今度IFLAに出るときは、こういう部会で発表者一人になりたいです。私が特に関心をもったのは、「不確かな連邦:英国と米国の図書館実践のモデルが、選ばれたかつての英国植民地と自治圏においていかにLIS教育を形づくったか」というタイトルのMary Carroll(オーストラリア)、Paulette Kerr(ジャマイカ)、Abdullahi I. Musa(米国)、Waseem Afzal(オーストラリア)という四人の先生方の共同研究の発表;またこれに続いた、Dan Dorner(ニュージーランド)先生の「発展途上国でのインフォメーション・リテラシー教育を支援するための資源の改良」という発表、このふたつです。
 後者の発表は、タイトルでは内容がよくみえないと思うのですが、インフォメーション・リテラシーというとき、自立した学習者として必要なものであるからこれを身につけましょう、という話になるわけですが、そもそもこの「自立した学習者」という考え方そのものが異文化である国では、違う教授用資料を準備する必要があるのではないか、というような内容だったと思います。彼の研究は、英国、米国、スリランカベトナムの社会を比較しており、英米ベトナムの間で、共同体主義(collectiveness)の度合いが大きくことなっており、その間にスリランカがくる、というデータが、「自立」をよしとするかしないかが文化によって違うのではという議論につなげられていました。この問題は、私が、インフォメーション・リテラシーの育成に関わる翻訳のたびに悩んできたことと近く、非常に興味深い指摘と思われました。今後、メールをとおして彼とは意見交換を続けられたら思っています。英国と米国の図書館実践のモデルの話は、私には、このふたつは、アングロサクソンの文化として共通しているものがあって、このほかにカトリック文化圏のモデル、東アジアのモデルのようなものが存在するように常々思っているのですが、このあたり、この4人の先生方の研究にこれから注目していくと、思索が深められるかもしれないと思いました。それからこの発表では、カーネギー財団が各国の図書館の開発支援をしていて、大きな影響を及ぼしたことが示されていましたが、このあたりは、一次資料が残っているのではないかと思いますので、もっと実証的な研究がすすめられてよいのではないかと思いました。
 学校図書館分科会が関わったふたつのセッションでは、公共図書館若い人たちに何ができるかという話題が複数の発表者から出されました。宿題を公共図書館でできるようにしておく(支援も得られるようにしておく)、自習室を提供するとかいったことがいったことも、相変わらず、各地の図書館で、ニーズはあるのだなと思いました。また、ノルウェーから、公共図書館学校図書館を統合した図書館(combined library)の実践報告があり、アフリカの参加者からの質問もあって、関心を集めていたようでした。combined libraryは、減っているとよく聞きますが、IFLAでは実践報告がコンスタントにあるように思います。そういえば、アルゼンチンでは、学校図書館に関する法律が成立したそうです。
 公共図書館分科会が中心となった、私が今回の滞在の最後に出席したセッションでは、フィンランドの児童文学の歴史についての発表、セラピー・ドッグの紹介の発表、あとは児童担当のライブラリアンでストーリーテラーのJim Højberg(デンマーク)氏の発表が、興味深かったです。Højberg氏は、好奇心が学習で一番大切、探究することが大切というお考えで、物ごとは変わり得る、慣習は改められうる、本や物語は実は音楽(性)に満ちている、といったことに子どもたちに気づいてほしいと思って、黙読による多読の推奨を超えたさまざまな活動をなさっておられることを報告されました。このような学習観が前提として共有されると、学校図書館公共図書館の児童サービスのあり方は、今の日本とは変わってくると思いますが、どうでしょう。ちょっと難しいような気もしますね。変化することに抗わない(諸行無常を受け入れる)だけでなく、積極的に変化を求める、探究の文化が社会にあるかどうか、で、図書館は違ってくるでしょう、やはり。
 といったところで、なんだか例年よりさっぱりしているかもしれませんが、IFLAの年次大会出席の記録を終わります。来年はシンガポールで、さ来年はフランスとのこと。わたくしは、次のIFLA出席はいつになるかわかりませんが、次こそは久しぶりに発表者側になりたいと今は思っております。