教科書を書きました。

 このたび、樹村房から、司書教諭資格取得のための必修科目「学校経営と学校図書館」について、教科書を出版しました。こちらです。
 大変に思い悩むところの多い今日この頃、このタイミングでの出版に、とまどいはありました。しかし、いつがベストタイミング、というのは、結局、ご縁だろうと思いきりました。樹村房では、古賀節子先生監修の司書教諭テキストシリーズが出されています。このシリーズの後継ということなのですが、結果としては、少なくとも第1巻はまったく違うものになってしまって、私としてはこの後も古賀先生のシリーズも出版し続けていただきたいなあと思っています。
 この教科書、理論的なことを重視して書くということできたのですが、できあがってみると、どこか自分の中に遠慮があったのか、いや単なる勉強不足ですね、追及の足りない部分が少なくないと認識しています。あとは、ちょっと自分の過去の学習経験に引き摺られすぎたような気も、今となるといたします。私の中でアメリカ合衆国での図書館経験というのがどうしても大きいのだと思います。私は、ライブラリアンシップ(librarianship)というものをアメリカ文化の中の"よき"もの、"良心"として捉えているので、この教科書でも全面的にそういう語り方になっています。が、この点は、すでに読んでくださった方から、妙にアメリカに記述が偏重しているのではないか、少なくともそう見える、今どきのことだから少し工夫すればよかったのに、というご意見をいただきました。学生たちも、私の授業に対して、「アメリカ寄り」というふうに見ているらしいことは認識していたので、今度の教科書にもそう感じる人はいるかなと思います。
 しかし、第6章「学校図書館の歴史(アメリカ)」の冒頭にも書きましたが、アメリカの学校図書館の歴史と現在の動向が、世界的な学校図書館の理論および実践を牽引しているのだと私は思っています。librarianshipの裾野が広いあの国で、school librarianの理論と実践は生まれていると私は思っています。例えば北欧の図書館やlibrarianの紹介がここ何年か、されていますが、ネタ元はアメリカの図書館界だと私は理解しています。図書館の実践と理論の発展をアメリカがリードしていることはどのような背景によるのか、その説明は簡単ではありません(それを説明したいというのが私の研究に対する情熱の源泉です。一生かかっても終わらない課題だと思っています)。ただ、ひとつには、それはアメリカで生まれたプラグマティズムPragmatism)の思想と結びついているのではないかと私は考えていまして、この教科書でもそれを直接的ではないですが、書いています。私の理解では、プラグマティズムという思想も、異なる文化をもつ人たちが共に暮らすときの実践哲学として発明され、アメリカ社会で現実に受け継がれているもので、社会的合意を理性的、良心的に図っていくために前提として共有しようとされているものなのだろうと思います。これもまたアメリカの"よき"もの、なのだと思っています。この二つ、といっても図書館については学校図書館、とプラグマティズム--このアメリカの"よき"もの(少なくとも私にとっては"よき")のつながりを、この教科書ではいくらかは説明できたかなと思います。まだきちんとした研究に基づいて表現をしっかり固められておらず、歯切れが悪いところがありますが。
 もうひとつ、文部科学省の施策への言及が少なくないが、これはどうしてか、というご質問もいただきました。第7章「学校図書館の歴史(日本)」の最後に書きましたが、日本の学校図書館の動向の概要をつかもうとすると、文科省の施策の影響が私には大きく感じられるのです。そのことは、日本の学校図書館の戦後史の研究のほとんどが戦後直後の時期に集中している現状では、仮説に過ぎないかもしれませんが、ひとつの流れを文科省の動きを軸にしてみることもできると私は考えました。このあと戦後史研究が進めば、また違う見方が提出されるかもしれません。でも、現時点では研究も不足しており、入手できた資料から整理を行なったというのが、今回の教科書の日本の近年の動向等に関する記述です。もちろん、私もこのあたりの議論がもっと実証的な研究を背景にしたものとなるよう、精進したいと思います。
 それから、複数の方からいただいたご指摘に、「マネジメント」の部分が弱い、というものがございます。これはまったくもって、わたくしめの勉強不足、経験不足ゆえでございまして、書いているときから認識しておりました。「学校経営」についてはなかなかコレという参考書が見つけられず、苦労しました。どなたか、よい本をご存知だったり、この先生に師事してはというアイディアをおもちだったりする場合には、ぜひご教示ください。
 あとは、「読み」についての記述も、甘かったと思っています。このあたり、今学期にのっぴきならぬ事情からはじめて「読書と豊かな人間性」を担当しておりまして、その授業準備でいろいろ改めて見えてきた"気がしている"ので、これから何年かかけて、理解を深め、いつか深みを増した記述に改められればと思います。今回はこれが限界でした。
 このあとも、感想お待ちしております。クリティカルなものを、歓迎します。

(2015.12.08追記)今井福司さんのブログで紹介していただきました。
(2015.12.16追記)足立正治先生のブログで紹介していただきました。