「一世紀前の「新しい美術館」と「新しい図書館」」

 立教大学池袋キャンパスにて、来月26日に、「一世紀前の「新しい美術館」と「新しい図書館」:ジョン・コットン・デイナ、根源的民主主義者の仕事」と題するアメリカのラマポ・カレッジ名誉教授のキャロル・ダンカン(Carol Duncan)先生の公開講演会を実施いたします(詳細のご案内はこちら)。ダンカン先生は長く、美術史の研究者として著名でいらしたのですが、2005年になるころから、ジョン・コットン・デイナ(John Cotton Dana; 1856-1929)の生涯についての研究を進められ、A Matter of Class: John Cotton Dana, Progressive Reform, and the Newark Museum(『階級の問題:ジョン・コットン・デイナ、進歩主義の改革、ニューアーク美術館』)という本を2009年にPeriscope Publishing社から出版されました。デイナが、社会階級の問題として図書館や美術館、教育のあり方の改良の必要性を真剣に考え、その信念に基づいて成し遂げたことについて、書いておられます。このご著書にまとめられたご研究の内容を共有していただこうというのが、今回の講演会の趣旨です。通訳はわたくし中村がいたしますので、プロの通訳によるものではなく、簡便になりますが、だいたい趣旨を理解していただけるようにはしたいと思っております。ぜひ、みなさまお運びください。
 日本の人たちには、デイナの名前を知る人は必ずしも多くないのではと推測していますが、デイナはアメリカをはじめとする諸外国の図書館関係者の間ではよく知られています。ダンカン先生はデイナのことを、序章の冒頭で次のように書いています。

John Cotton Dana (1856-1929) was the most famous librarian American ever produced and went on to become its most original museum director.

アメリカ図書館協会(ALA)は、彼の名前を冠した賞をもっています(The John Cotton Dana Award)ここに書かれているようにH.W. Wilson FoundationとEBSCO社が出資)。パブリックリレーションズ(広報・渉外と訳すとちょっと違う感じですけれど…)の活動に対して与えられる賞ですね。過去には、図書館が実施したキャンペーンなんかに贈られています。
 日本でデイナについて、ああ!と言っていただくのに一番よさそうな話は、デイナは、ニューアーク(Newark;ニューヨークに近い、ニュージャージー州の最大都市)公共図書館の人で、あのニューアークの貸し出し方法を考え出した人ですよーというものでしょうねえ。簡単に言ってしまいますと、近代的な図書館、効率的な図書館サービスというものを追求した人でありますね。日本語で何か読みたいなという方は、山本順一先生のまとめられた人物伝をお読みください(山本順一「ジョン・コットン・デイナの生涯と図書館哲学」『図書館人物伝:図書館を育てた20人の功績と生涯』日本図書館文化史研究会編, 日外アソシエーツ, 2007, p.299-321.)。英語になりますが、上掲のA Matter of Classについては、Journal of the History of Collections Volume 24, Issue 1, March 2012掲載の この書評を見ると、概要がよくわかると思います。
 ダンカン先生はアメリカから今回おいでくださるのですが、実はもともとは、お隣の学芸員課程が招聘され、講演会を企画しておられました。ダンカン先生のお名前をMuseum Studiesの世界に知らしめた名著、Civilizing Rituals: Inside Public Art Museums, Routledge, 1995(川口幸也訳『美術館という幻想:儀礼と権力』 水声社, 2011.)にもとづく講演会を、学芸員課程では一足早く5月21日に実施します(詳細はこちら)。ルーブル美術館がいかにして生まれたかについてのご研究を共有していただくことになっていると理解しています。ルーブル美術館は、フランス革命を経て、市民に開かれた美術館へと発展したわけですので、デイナの思想と共通するものが、ルーブル美術館の草創期にも見られるのでしょうねえ。