上海での調査

 上海に弾丸ツアーで調査に行ってきました。 The Western International School of Shanghai(WISS)というインターナショナル・スクールのヘッド・ライブラリアンの方へのインタビュー調査でした。彼女はスコットランドの出身で、post-graduateのライブラリアン資格(学部卒業後に取得できる資格です)を持って仕事をしていらっしゃるということで、彼女のキャリア・ディベロップメントについて聞いてきました。彼女はなんと今、同校の執行部メンバーでもあるのです。IB(インターナショナル・バカロレア)制度に基づいた学校で、どうやら世界的にも関心が寄せられているらしく、先日も日本に呼ばれたと仰っていました。
 学校図書館はガラスを多用していて、入口から入ってすぐが小さな子どもたち向けで、この写真の右奥の、後から増築したスペースが、今回お会いしたヘッド・ライブラリアンの方が担当する、中等教育向けになっていました。
見通しがよく、管理しやすいということでした。 
 彼女のキャリア・ディベロップメントについては、5月に発行する立教大学司書課程紀要SPLに報告を書きますので、ここでは、彼女が仕事の時間をどのように使っているかという話について、報告します。ちなみにスタッフは、入ってすぐの小学校までの子どもたちのための図書館のライブラリアンとヘッド・ライブラリアンである彼女に加えて、3名のフルタイムのアシスタントがいます。資料はなんと、(教科書を除くと)3万冊くらいしかないそうで、特に中等教育は、インターネットとデータベースがもっとも重要な情報源になっているとのこと。リサーチの課題も、まずはインターネットに向かう、ということです。いっぽうで伝統的な本のコレクションの多くは、入手にさまざまな困難があることも影響しているのだと理解しましたが、基本的に読書推進のためのもの、という位置づけだそうです(もちろん、それらの本がリサーチに使えないなんて言うつもりはありませんが)。生徒の国籍が多様なので、読書推進の資料も複数言語で、日本語の資料もありました。各言語を母語とする保護者たちや、教員たちが手伝ってくれて、コレクション形成をしているそうです。小学校までの子どもたちはクラスで定期的に図書館に来るけれど、中等教育はflexible schedulingつまり、必要に応じて図書館に来るということです。
 ヘッド・ライブラリアンの彼女の仕事は、レファレンス対応とティーム・ティーチングがひとつのカテゴリのような話しぶりで一番大きいそうで、そのほかに資料選定・発注およびコレクション形成、管理職としての業務(学校の管理職として、また図書館の管理職として)、そして近年力を入れているのが、教員向けのワークショップの企画・実施ということでした。教員たちに図書館の使い方、いかに使えるかを知ってもらうためのワークショップを年に3〜4回は実施しているそうで、それの効果もあって、ライブラリアンとのティーム・ティーチング以外でも頻繁に教員たちが学校図書館を使うようになっている、ということでした。資料の整理・受入業務、配架という業務は、話しぶりから、アシスタント・ライブラリアンたちの仕事と理解しました。
 おもしろかったのが、インフォメーション・リテラシー・インストラクション(情報リテラシー教育と訳した方がわかりやすい?)という言葉はそれほど意識していない、という彼女の発言。いろいろ言葉を変えて問いかけて確かめたのですが、いわゆるプロセス・モデルは小学校までに学んでいると思うので、中等教育レベルでは、状況に応じて教えている、ということでした。だから、上記のように、レファレンス対応とティーム・ティーチングがひとつのものとして彼女には見えているのだと思いました。私は、やっぱりそうかあという思いでいっぱいでした。私は、「学習指導と学校図書館」の授業ではプロセス・モデルをいかに教えるか、ということを学生たちと考える作業をもう十何年もしてきているのですが、ここ数年、WISSの彼女の考え方と同じようなことを考えるようになっていました。インフォメーション・リテラシー・インストラクションの近年の実践の動向を、遠くない将来、アメリカで調査したいと思っています。インフォメーション・リテラシー・インストラクションの実践を大量に見たのは、私はハワイ留学中ですから、つまり、正直に言って、20年近く前なのです。あとは主として文献、そして国際会議での実践報告からフォローしてきたので、なにか違和感を感じる今日このごろです。集中して、山ほど、実践が見たいなあと最近、すごく思います。サ、サバティカルぅぅぅぅ…
 
 さて、調査後は、上海で最近ちょっと有名らしい書店、衡山坊(Hengshanfang)の書店(こちらに紹介あり)と上海図書館公共図書館)に行ってきました。前者はアート系の書店。大きくは無いのですが、アート系の世界的なトレンド把握にはもってこいという感じでした。こういう書店はある意味、日本っぽいような、、、
 上海図書館は、基本的に住民向けということでありまして、入口のゲートで利用者カードを通す必要があり、中には入れません。けっこう多くの人の出入りがありました。まあ、都立中央図書館と同じようなイメージかな。ちなみに、上のリンク先の上海図書館のHPの一番上を見ていただきますと、中国語・英語・日本語・ロシア語・繁体中国語のページがあって、かつ、无障碍辅助工具条という操作ができるらしいことがわかります。无障碍辅助工具条って、なんらかの障害でうまくHPが見られない人は、ソフトウェアで見え方を変えられるようでした。

 そういえば、ヘッド・ライブラリアンの彼女は、上海のインターナショナル・スクールのライブラリアンたちとの研究交流グループを立ち上げた人物で、このグループで毎月、執筆家を呼んだ研究会等々を実施しているそうで。その話を聞いて、日本からも学校図書館関係者が毎月行って交流してっていうのもありかなーと一瞬夢想したのですが、学校を出て、上海の道路に立った瞬間に、空気がなあ〜となってしまった。汚染、けっこうすごかったと思います。