IFLA@ヴロツワフその2

 今回、けっこう図書館を見ることができました。まあ、ヨーロッパですので、図書館の数が日本の比じゃない。このヴロツワフの中心部で言えば、大人なら歩いて行くことのできる距離に複数、公共図書館があります(どのくらい歩ける人かによるわけだが、徒歩15分圏内に3館はある)。今回私が見たのは、大学図書館が2館、公共図書館がオポーレ(Opole)という隣町で3館、このヴロツワフで3館、そしてヴロツワフ学校図書館3館、教員向けの図書館1館を見ました。結論から先に行ってしまうと、ポーランドの図書館はまさにこの数年で急激に変化、発展してきているのだろうというのが私の印象です。しかしそれは、基本的には建物の話と、活動内容の話ですね。コレクションの充実にはまだまだ資金投資が必要そうです。学校図書館に関わっていえば、公共図書館の児童サービスがけっこう充実している気がするので、まあ財政的に後者に集中投資されているのだろうなっていう印象でした。この急激な発展は、IFLAの開催地になったことと無関係というのはあり得ないのではと私は考えています。旧共産圏ということで私の見方にバイアスがかかっているかもしれませんが、この5年以内くらいで開館したという話が多すぎる気がしました。
 でも、驚くのは、どの図書館に行っても、"人"、つまり(教)職員は配置されている。ロシアに行ったときもそんな気がしましたが、いっぱんに人件費が安くて(=お給料が低くて)、でも仕事はしやすくて、特に女性が、そんなに不満もたずに、図書館や学校で働いているのだろうなという感じがしました。四つの学校で会った教職員は、管理職を含めて全員、女性でした。オポーレの図書館で出会って親しく話すことができた三人(女性二人、男性一人)にお給料のことを聞いたところ、一人暮らしはできないので家族か友だちと暮らす、とか、仕事をかけもって一日11時間12時間と働いている、とか、文化を仕事にしてお金が稼げるということはない、とか言っていました。ポーランドの男性はイギリスなりドイツなりにたくさん働きに出ているのですよね、もちろん、国外に働きに出るのが男性と決まってはいませんが。フィリピンと同じ感じなのかなと。優秀でも仕事がない、意欲的で事情が許す人は思い切って先進国に出てしまう。そうすると残ったメンバーでやる限界がある、という(ほんとにあるのかわからんが、残った人はやっぱりがっかりする)。もっとも、こういう話は日本国内の東京一極集中と同じような話かもしれないですね。ちなみに、ポーランド人は、私くらい、つまり40代半ばくらいかね、は、学校で英語を一切学んだことがないそうで、みなさん苦労して学校や図書館について説明してくださいました、多謝〜。電車の中で、60代と思われる男性にドイツ語はできるかと聞かれたことから推測すると、ドイツ語をみんな学んだのですかね。もしくはロシア語???でも、20代や30代前半くらいの子は、簡単な英会話はできます。けっこう流暢に話す子も少なくないです。
 
 大学図書館は、IFLA大会のオフサイトの会場になった二つを訪れました。一つはヴロツワフ大学の図書館だったのですが、この大学の図書館は複数の場所(建物)に分かれていて、私が行ったのは一番新しい建物(グーグルマップへのリンク)で、見た限りでは一冊も本がなくて、雑誌架はありましたが、大半がコンピュータの並ぶ部屋や会議室でした。もう一つは、ヴロツワフ工科大学の図書館で、こちらも私が見た範囲ではほとんどコンピュータの並ぶ部屋と会議室でした。両方とも、新しくてきれいでしたけれどね。ちゃんとしたツアーをしてもらったら、もっと違うエリアもあって見ることができたのかもしれませんが。
 ご存知の方も多いと思いますが、IFLAの大会はたいてい最終日翌日が図書館見学会になっていて、複数のツアーが同日に行われるのです。一つしか選べないので、学校図書館しか私はたしか選んだことがないです。それで、別の図書館は自力で行くことになります。今年、ツアーの中に、ヴロツワフの隣町(特急で1時間)が選択肢に入っていました。香港人の会議に飽きた友人が、最終日の閉会式じゃなくて、その街に行ってみようよ、というので、お供することにしました。このオポーレという街には、大学も複数あって、ヴロツワフほどではもちろんないですが、けっこう大きな街でした。この街に行こうとすると、ヴロツワフ中央駅から特急(IC)に乗るのですが、そうするとその駅にできたばかりの公共図書館にも寄れていいじゃないといって出かけました。これが大当たり。図書館で話しかけた人たちがほんとうに素敵な人たちで、正直にいろいろ聞かせてもくれて、いい出会いでした〜感激〜。ツアーで行ってこそしてもらえる説明もいっぱいあるのですが、個人的に話しかけてこそ聞ける話もいっぱいあるのですね〜。もちろん、ワルシャワとはここは違うと思います。ヴロツワフとオポーレもたぶん違う。オポーレくらいの大きさの街だと、外国人が来て、話聞かせてって言ったら、できるかぎり付き合ってくれるって感じなのかなと思います。とにもかくにも、素敵な人たちでした。
 訪れたのは、オポーレ県立図書館オポーレ市立公共図書館です。日本の市立図書館と県立図書館の関係と同じのように聞こえました。県立図書館は県内に4館あるということでした。市立図書館は18館。オポーレ中心部にある県立図書館は歴史的な建物で、狭くなってきたので、新しい建物を県に要求していると言っていました。私が話したのは、ポーランド史と英文学を学んだ二人で、共に女性。少なくとも英文学の方は博士号をもっていると言っていました、30歳前後かな。冗談みたいに言ったので確信がないのですが、ポーランド史の方も博士号もちみたいでしたが、少しだけ若い感じでした。大学時代から知り合いだったと言っていましたが、英文学の彼女が先に図書館に就職したと。二人とも、図書館情報学の学位はないと言っていました。ただ、私たちはbibliographyが分かっているので、と言っていました。どういう資料があるかと調査法はわかっているから、利用者の高度なレファレンスも対応できるし、展示会等の企画もいいものができる、というようなことだったと思います。ポーランド史の方は、今、歴史的なポスターを集めた企画展示の準備をしていると言っていました。展示をしたら、それはそのまま捨てることはしなくて、県内の図書館に貸し出していると言っていました。私が見せてもらった範囲からの理解では、この図書館は4階建てで、隣にあと二つ別の建物がありました。メインの建物1階はパソコンとCD、DVD等のマルチメディア、2階から3階は閲覧室と開架、4階は閉架でした。もう一つの建物は、1階は展示室で、一般市民に無料で展示の機会を与えているとのことでした。2階より上は県の事務のオフィスがあると。それで地下は小さな講習室と宿泊用の部屋(お風呂とおトイレ付)でした。宿泊用のお部屋は、外に直接つながる場所にあって、講演会があったりすると、市の中心部だし、喜んで講演者が泊まると言っていましたが、なにしろ歴史的建造物なので、気味が悪い感じが…(笑)。そして、もう一つ別の建物に、印刷の部署があって、図書館のチラシやポスターはここで印刷してもらうと言っていました。どのチラシもポスターもセンスがいいと思ったら、デザインの専門家がいるということでした。
 オポーレ市立図書館は、中央館と分館2館を訪ねました。この3館を歩いて訪ねたので、ヴロツワフ市内と同様、歩ける範囲に3館は図書館があるということですね。しかも県立図書館も含めれば、4館ですね。市立図書館本館は5年前にできたそうで、この中央館の建築はすばらしかったです。私が過去に訪れた図書館で建築が忘れられないのが、マルメの図書館ですが(そのときのエントリはこちら)、それと同じくらい記憶に残りそうです。ヴァーチャルツアーがこちらにあがっていたので、ぜひ見てみてください。職員は利用者がいないときもカウンターで仕事をしていて、これはスペインの新しい図書館のトレンドと同じだなと思いました(バルセロナでの調査報告はこちらから)。
1階にはセンスのいいカフェがあって、香港人の彼女がその香りに、Just I cannot resist!ということで、飲みましたら、これは今回の旅の中でいちばん美味しい珈琲でした。お菓子も美味しかった!美味しいって重要だよね。1階はあと講習室と展示室でした。図書館に、カフェや文化的なイベントに来て、上の図書館ゾーンには行かないで帰る人もいていいっていう考え方でしょうかね。入口には返却のための機械(無人)もありました。この図書館でいいなと思ったのが、数少ない閲覧席が川と緑が見えて書架のちょっと奥まったところで、すごく快適なのですね(この図書館のインスタの写真をぜひ見てみてください)。あと、児童室(写真参照)、マルチメディアの部屋(続けて写真参照)もすごく雰囲気がよかったです。いや、雰囲気はどこもすごくいいのですよね。パソコンがたくさんあるのはスペシャルコレクションの部屋なのが面白かったですが、カウンターで古いカトリックのカードの目録作業をしていた職員の方を見ていたら、コンピュータの利用登録作業と並行して目録作業をしているようでした。すごく合理的だなと思いました。その職員の方はおそらく20台の男性で、聞いてみたところ、図書館情報学を学んだことはなくて、学位は音楽で、以前はミュージシャンだったと言っていました。以前は図書館学を修めていないと市立図書館では働けなかったが、数年前に変わったとも言っていました。整理中のカードをいろいろ見せてくれたのですが、これは同館を退職した人が長年集めていたものを寄贈してくれたのだが、数百前のも含まれているよ、と言っていました。けっこう気軽な感じで管理していて、さすがヨーロッパは百年、二百年くらいじゃ、それほど古いうちに入らないのだなあと。興味深かったのが、この彼が、「カトリックは歴史だ」と言ったこと。あともうひとつ、この図書館で興味深かったのが、マルチメディアの部屋に漫画のようなものもけっこう置かれていて、そのうちの1冊を手に取ったら、かなりどぎつい性行為の描写があったのですね。香港の彼女と、どうなの?という話になって、一人の職員の方(この方も20代に見えた)が近くに来たので、「これっていいの?受入前にチェックしてる?」と聞いたら、笑って、「うん、問題ない」って簡単に答えられてしまった。We are from Asia.とか言って、私たちの国だと利用者が何か言ってくるかもしれないねーって香港の彼女と話しました。かなりリベラルそうです(北欧やドイツと同じ感じですかね)。このカトリックは歴史、というのと、リベラルな選書と、で、私はポーランドの今の変化の大きさ、急激さ、ジェネレーションによる考え方の違いを強く感じました。共産主義の時代にも、カトリックを維持できたポーランドが(ヨハネパウロII世が選ばれたのはポーランドカトリックを守るためだったという説もあるが…)、今度こそ、カトリックを捨てることになるのか?!この話題、香港人の彼女は、「近代化した社会はそうなる」の一言で済ませてましたが。
 さて、この後、この場所の図書館にグーグルマップを手がかりに行きました。そうしましたら、グーグルマップの写真となにか違うのですね。あとで聞きましたら、以前は、この場所におもちゃの専門図書館があったそうなのですが、おもちゃは5年前にできた中央館の児童室に統合されたそうです。それでこの分館は基本的に本、そしてイベントを担当する、児童、ヤングアダルトサービスの市立図書館分館になっていました。しているようでした。声をかけた職員さんが、20代後半かなという男性でしたが、彼はなんと、“creative pedagogy”(「創造性の教授学」と訳せる?)を専攻したそうで(図書館情報学ではなくて)、子ども向けのイベント、ワークショップ等の企画はお手のもの、みたいでした。この夏にやっているイベントは政府(国のようでした)からお金が出ていて大きなものだそうで、船の上で読書するというようなアイディアで、この地域の子どもたちについては彼が子どもたちを連れだしているのですって。そのときのビデオを見せてくれました。川に大きなボートを出して、子どもたちはその上で本を読んでいました。この分館はちょっとした坂の上にあるのですが、行くときに、私たちが上っていたら、図書館の側から数十人の子どもたちが歩いてきました。幼稚園かなあ。で、彼と話していてわかったのが、私たちが来る直前まで、その子どもたちがクラスで図書館を訪れていたそうなのです。この話を聞いていたので、翌日、ヴロツワフ市内の学校図書館のツアーが終わった時点で、公共図書館の数が多いし、子どもたちを公共図書館に連れていくというベクトルで過去は考えられていて、あまり学校の図書館は発展してこなかったのね、と私は思いました。上の写真はこの図書館のお部屋の一つ。そしてマンガのコレクションです(ディズニーもあり)。
 この後、親切な彼が、もう一つの分館に案内してくれました。グーグルマップのこちらです。旅行に関する資料を充実させた図書館とのことで、それ以外は一般的な読み物や児童サービス、イベントなどもやっているということでした。団地の2階にありました。そうやって話を聞いているうちに、ポーランドでは、公共図書館は主題ごとに分担収集のようなことをしているのだなということがわかってきました。これは実は、翌日、学校図書館のツアーで、高校の図書館3館を見せてもらって、高校も似たような構造になっていることを知りました。ひとつの学校は医療・心理コース、もうひとつの学校は演劇のコースが強いと言っていました。どの学校にも複数のコースがあるそうなのですが、伝統的にこのコースに力を入れている、というのが各学校にあるようでした。まあ、共産圏の教育のやり方ですかね、専門性を分担するという考え方は。ちなみに、この旅行の資料が充実する分館にも案内してくださったcreative pedagogyを学んだ彼は、教会に行っているけれど、みんなは洗礼は受けていても教会には行っていないよね、と言っていました。ふむ。
 これでオポーレからヴロツワフに戻って、この日のうちに、駅舎2階にこの5月かな?にオープンした図書館に駆け込みました。歴史的な建物に公共図書館が新しくできて、とってもいい雰囲気でした。資料も新しいものばかりでした。駅舎2階は以前は政府や企業のオフィスが入ったりしていたみたいです。それを図書館に変えたということですが、利用者がどのくらいなのかは、今、開館したばかりで夏休みになったので、また9月以降にならないとわからないなあと言っていました。あっ、ちなみに、オポーレに大学が二つあったので、訪れてみましたが、両方とも図書館は閉まっていました。なんと、ポーランドでは8月は丸々、大学図書館は閉館するそうでーす。なんとも…

 さて、翌日はIFLAによる企画ツアーで、教員向け図書館1館と学校図書館3館を見ました(ここに出ているうちの、半日のツアーの3番です)。が、みなさん、40代から50代の方たちが対応してくださったので、英語がよく通じないということがあって、確信をもって理解できたことが少なくて、ここに書けることがあまりない気がします。ただ、教員向け図書館は、教材や教育方法の研究のための図書館ですが、けっこう充実している感じがして、いいなと思いました。学校からインターネットで資料を検索して取り寄せもできる。あと3館は、すべて高校の図書館だったので、小・中の図書館は未発達かなと思いました。これらの高校の資料は古いものが多くて、新しいものはほんとうに少なかったです。ただ、どこも、文化的なイベントはいろいろ企画しているみたいでした。必ずしも読書に関わるものじゃなくても、生徒たちが図書館に集まってくるような楽しいイベントを企画・実施しているのだなと思いました。あと少しみんなが話題にしていたのが、図書にラベルが貼られていないこと。探しづらいよね、とみんなが言っていましたが、要するに、資料の数が2万冊とかいうところで、ある程度、分類はされているので書架を見ていけば探せるし、そもそも古い本がほとんどなので、新しいものを手に取ろうとするならすぐに見つけられるし、だいたい本があまり動いていないから問題ないのではないか、というのが私の推測です。といったところで、学校図書館は、今回見た3館は選ばれし学校だと思いますが、まあ、それでこれだと残りについては推して知るべしというところです。これからの発展が期待されている、というところですね。
 このツアー終了後、市の中心部にある二つの公共図書館をものすごい駆け足でですが、訪問しました。一つは広場に面した図書館(グーグルマップのここ)。もう一つはMediatekaという図書館です。広場に面した図書館は、このHPの説明から理解するに、おそらく県立図書館だと思います、ドルヌィ・シロンスク県の。とにかく、ええっこの立地!?という、立地に驚きですね。超一等地じゃないですか。中身は、写真でも見えるかもしれませんが、アメリカとフランスの国旗が入口に飾られているように、外国についての資料を中心とした図書館になっていました。アメリカ、フランスの他にも、ドイツ、韓国等が支援してできたようです。児童室も、他の文化を知るというテーマになっていました。オポーレ市立図書館でもそうでしたが、児童室には必ず、子ども用の机の上にはクレヨンや紙があるのです。そしてゲーム(ボードゲームだけでなく、ソフトも)やおもちゃのコレクションがある。左の写真を見てください。古い施設でもこんな雰囲気です。いいですよね〜。私が見学した公共図書館はどこも、幼児がたくさん来てただ遊んでいました(本を読んでいるわけではない)。でも、思ったよりこの図書館、使われていない感じがしましたね…この図書館を見た翌日に会ったIFLA大会参加者の一人も、そういう印象を受けたというふうに話していました。要するに、日本にあるアメリカンセンター、アテネフランセゲーテインスティテュートが一つの建物に集まった感じなのですが、日常的に利用するところじゃないっていうことですかねえ。
 Mediatekaの方は、名前のとおり、CDやDVDを中心とした図書館で、でもここも建築がなかなかよかったですね(ぜひこの図書館のインスタグラムを見てください)。狭くても、イベントスペースも設けてあって。とにかく、今回、ヴロツワフとオポーレで図書館を見て思ったのは、少なくとも近年建てられたりリノベされたものについては、図書館建築とインテリアがものすごくセンスがある、ということ。それはオポーレに一緒に行った香港の彼女も言っていました。インテリア、デコレーションがすばらしいと。文化的なイベントをどんどんやっているところといい、図書館建築といい、ドイツ的なのですかね。ヴロツワフもオポーレも、ドレスデンまでドライブで3〜4時間というところですし、いろいろ情報が入って来るでしょうね。

 このあとは番外編のような話ですが、図書館見学ツアーの翌日にはいつも帰国しているのですが、今回、ポーランド航空が飛ばない曜日だったために、ぽっかり空いてしまいまして、IFLA大会のポストコンフェレンスの観光ツアーに乗りました。はじめてこういうツアーに乗ったのですが、すごくよかったです。まず、IFLA大会参加者と改めて出会えるということ、それから、やっぱりその地域を知るということは重要だなと実感しました。今回乗ったのは、地元つまりドルヌィ・シロンスク(Lower Silesianを意味するポーランドの呼び方)を巡るというツアーで、ポーランドで3番目に大きいというクションシュ城(Książ Castle)と、世界遺産の木造建築のプロテスタントの教会、シフィドニツァの平和教会(Peace Church in Świdnica)を訪れるというものだったのですが、この二つとも、もっとPRして人呼べるよ!と言いたくなるような、興味深いものでした。お城の方はですね、おもしろいことに、個人所有だったもので、つまりオーナーが王様ではなかった。豪族ですな。で、このお城の戦前最後の所有者だった家族の歴史が激動で、スキャンダラスで面白くて、かつ、戦中にこのお城がナチスに占領されたと。で、ナチスドイツが地下にものすごく長い、えっと、500mだったかな、のトンネルを掘っちゃってまして、ここに金塊を隠していたらしいという噂で数年前に騒ぎになったりしている(ガイドさん曰く、これは仕組まれた騒ぎ、つまり観光のためのプロモーションだったのではとも言われているらしい)。このお城は行ってみる価値がありました。
 このお城の中で私たちを案内してくれたガイドさんがこれまた20代と思われる若者で、彼が、お城の4階5階が整理ができていないからと公開されていないのに対して、ガイドたちはダークツアリズムとして公開すべきと主張している、と言ったので、私はとうとう、やっぱりなあ、と思いました。今年に入って2回、ポーランドを訪問した範囲の理解でですが、この国で、特に若者は、もう開き直って自分たちの歴史をダークツアリズムでアピールしちゃおう、と思っている気がします。もちろん、ふざけた態度ってわけじゃなくて、なんていうか、やっぱり、第二次世界大戦(から冷戦時代)がいまだ生々しい国ですから、今の20代がはじめて、共産主義の終わったポーランドに生まれて、国全体として少しずつ20世紀の悲しみから脱却しようとしているのじゃないでしょうか。日本人は高度経済成長を通じて、戦争のこと、敗戦のことを、忘れよう忘れようとしてきた。例えば、私の両親は戦争をしっかり覚えている世代ですが、子どもたちにそれを語るということは、聞かれない限り、自ら積極的には、少なくとも日常的にはしないという態度でした。それでも、子ども3人とも、話は聞いてきたし、彼らが戦争で受けた傷はある程度、認識していると思います。ただ、表向きには、日本は、みんなで、基本的には過去を忘れて、未来を、”発展”を追い求めてきたわけですよね。子どもたち、孫たちに戦争のない、豊かで(貧乏ではなくて)幸せな社会を残したいと祈ってきた。いっぽうで、ポーランドは戦後はロシアの圧力の下に置かれ、経済発展という形で一気に方向転換とはいかなかった。ツアーのガイドさんにバスの中で、ポーランド人はドイツとロシアのどちらに好ましい感情をもっているか、という趣旨の質問をした人がいたのですね。それに対するガイドさん(30代かな、男性でした)の答えは、もちろん、Red Armyがポーランドナチスドイツから解放してくれたということはあるが、ロシアは共産主義を押しつけてきたわけなので、結局のところ「それぞれの家族の経験による」というものでした。おじいちゃん、おばあちゃんが戦時中から終戦の時、戦後にどういう経験をしてきたか、が家族の中で語られるので、それによると思う、ということでした。このツアーは、チェコの国境近くまで行くものでしたが、ヴロツワフからわずか1時間のドライブでした。ポーランドがいかに隣国に囲まれているか(まあヨーロッパはどこもそうなのですかね)。このドルヌィ・シロンスクという地域、私はワルシャワより好きになりました。たぶん、政府(国)から一定の距離があるからですね(地理的かつ心理的に)。地方都市の魅力を感じられ、きっとまた訪れたいと思うようなところでしたぁ。

(2017.8.29追記)私が話すことができた、オポールの図書館で働いている人たちが全員、図書館情報学を学んだことがないという人たちだったことについて、これを書くつもりだったのを忘れていました。私は、それはいいことじゃないかなーって思いました。図書館情報学を専攻した人も働いているみたいだし、一部の職員は学んだことがなくてもいいのじゃないかなと。これは、図書館情報学の教育の欠落を認めることにもなるのかもしれないけれど、高度な主題専門性とか、音楽とかデザインとかの能力、今の図書館ですごく重要だと思うのですね。特に音楽やデザインは、今の日本の公共図書館の職員にも必要だと思う、絶対に。最近、司書課程ができることって、あるなあと強く感じています。