情報を整理して提示するということ
情報をいかに発信するかの文化の差を語るとてもいい機会だと感じるので,今度は,日英米の新型コロナウィルスについての特集ページを並べてみよう。
- 厚生労働省の特集ページ
- 首相官邸による新型コロナウイルスお役立ち情報(首相官邸のホームページでは下記ページの周辺でやたらとページが作られているようで,正直言って何がなんだかわかりません。)
- 英国保健省(Department of Health and Social Care)の下の特集(Featured)とされて飛ぶ政府のページ
- 英国国民保健サービス(National Health Service: NHS)のコロナウィルスのページ
- アメリカ合衆国保健福祉省(United States Department of Health and Human Services: HHS)の下のアメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDCのCOVID-19の特別ページ
私が英国の二つの機関のものがシンプルで好きです。アメリカのCDCの1ページに情報がまとまっているのが好きな人もいるだろうと思います。日本のページが好きだという方はとっても日本人の方なのでしょう(日本人度テストみたいなものかもしれん)。英国の政府の対応のページの冒頭は,文字ばかりなのですが,ここに必要な政府発信の情報へのリンクはまとまっています。まあ,日本の厚生労働省のこのページもまとめようとはしているんだけど,どこを見たら何がありそうかがほんとわかりづらいと私は思う。
で,私の目から見て絶望的な差は,この厚生労働省のページの「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」のところと,英国の政府対応のページでリンクが示されている「コロナウイルス・アクションプラン」のページの構造と内容,文章の違い。厚生労働省のページでは,「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」とくくった下にもう一度,「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」がある。そしてそのリンクを開けた先の報告書の,(私には)わかりづらいことと言ったら!
■新型コロナウイルス感染症対策の基本方針
2月25日に政府の「新型コロナウイルス感染症対策本部」が開催され、新型コロナウイルス感染症対策の基本方針が決定されました。この基本方針では、現在講じている対策と、今後の状況の進展を見据えて講じていくべき対策を整理しています。
「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」(2月25日)
※新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 脇田座長のご説明(第13回新型コロナウイルス感染症対策本部)(2月25日)
・新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた専門家の見解(2月24日)
で,英国のさっきのページから,「政府のコロナウイルス・アクションプラン:英国全土で何を期待できるかへのガイド(Coronavirus action plan: a guide to what you can expect across the UK)」のHTMLヴァージョンに飛んでみる。文・文章そのものの明瞭さの違いが実は一番大きい気がするのだが,そこまでは今日は突っ込みません。ぜひ原文をご覧ください。
日本の「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」の構造を見てみよう。この他に①…だの(ア)…だのが構造がわかりづらい形で使われているがもうここでは意味わからんと思って削除しました。どうぞ原文をご覧ください。もちろん,一般的な日本人が書く文章よりはずっとずっと構造化されていると感じます。
1.現在の状況と基本方針の趣旨
2.新型コロナウイルス感染症について現時点で把握して
いる事実3.現時点での対策の目的
4.新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の重要事項
(1)国民・企業・地域等に対する情報提供(2)国内での感染状況の把握(サーベイランス(発生動向調査))
(3)感染拡大防止策
(4)医療提供体制(相談センター/外来/入院)
(5)水際対策
(6)その他
5.今後の進め方について
英国の「政府のコロナウイルス・アクションプラン」の構造を見てみよう。私の急いでしている翻訳がわかりづらいという方は英語本文をご覧ください。
1. 導入
2. このウイルスとそれが引き起こす病気についてわかっていること
3. 英国は感染症の発生(outbreaks)にいかに備えているか
主な呼吸器ウイルスの発生[歴史]
計画策定の原則
4. 現在のコロナウイルスの発生に対する我々の対応
現在の計画策定状況
各フェーズの対応 – これまでに何をしたか
封じ込めるフェーズ – 現在までの対応
遅らせるフェーズ – 現在までの対応
研究のフェーズ – 現在までの対応
本対応を支えるのに一般人(the public)が果たすことのできる役割
各フェーズの対応 – これから何をするか
遅らせるフェーズ – 次のステップ
研究のフェーズ – 次のステップ
苛酷さをやわらげるフェーズ – 次のステップ
添付A:パンデミックへの準備と対応の責任
国家の責任
地方・地域の責任
複数機関の協働
その他の公共サービス
添付B:専門家のアドバイスと指導
(最後に15の引用文献のリスト)
日本の「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」は2月25日(火)付,英国の「政府のコロナウイルス・アクションプラン」は3月3日(火)付に発表。ちょうど一週間違うので,もっと時間があったらこの英国くらいのものは出せました!と日本政府が言うのなら,そうなのかもしれんね...
ちなみにアメリカのCDCのページはほんとうに情報量が多いし,それはもちろん組織化して提示されていて,必要に応じてさまざまな情報を取り出せるようにはなっている。ただ,各州政府との関係が難しいのか,トランプ政権の姿勢か,今回の情報発信については,英国が優れていると私には見える。
最後になるが,日本のメディアやSNSでは批判をよく見かけるが,私は日本の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議にそこまで批判的ではない。今回,英国政府の方針文と比較した「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」だって,そのへんにある(私も日常的に書いているような)日本語の文書に比べればずっとよく整理されている。たぶん,やっていることも間違えていない。だけれども,専門家会議の情報発信,リーダーシップには問題がある。これはしかし,専門家会議だけの問題ではなかろう。