「図書館とソーシャル・キャピタル」事後

 昨晩、実施いたしました。柴内康文先生の講演会「図書館とソーシャル・キャピタル」。いやーよかったです。来年の春に、本学司書課程紀要で記録を出しますので、皆さまご覧ください。本学の学術リポジトリからになります(学校・社会教育講座→St. Paul's Librarian)。
 さて、質疑応答で、話題になった、調査をご紹介します。

片山ふみ, 野口康人, 岡部晋典「図書館は格差解消に役立っているのか?」『シノドス』2015.12.7, http://synodos.jp/society/15672 (参照2015-12-19).

 これ以前に、社会情報学会での報告もあり。

野口康人, 岡部晋典, 浜島幸司, 片山ふみ「社会階層と図書館利用」2015年社会情報学会, 2015年9月13日, 明治大学駿河台キャンパスにおいて.(こちらの発表スライドを参照しました。)

 彼らが使っているのは国会図書館の以下の調査で得られたデータ。

国立国会図書館「図書館利用者の情報行動の傾向及び図書館に関する意識調査」[2014], http://current.ndl.go.jp/FY2014_research(参照2015-12-19).

 国立国会図書館のこの調査の結果も、議論がいくらでもできると思うけれど、ここで得られたデータを用いて、図書館と「資本」の関係を見ようとしたのが彼らの研究ですね。ネット上で議論がすでにされているということも聞いたけれど、また、昨日の質疑応答でも多少の議論がありましたが、私個人の意見は、語りすぎなんじゃないかなーという。
 心理学の研究者と、私は複数回にわたって、統計処理を使った研究をいっしょにさせていただいていますが、彼のデータの取り扱いと解釈に対する慎重な態度、判断というのは、心理学や統計学をきちんと学んだ人がもっている、極めて身につけることが困難な、それこそAASL用語(AASLの最新のガイドライン)で言うところの、"dispositions in action"で、それは、それらの学問をきちんと学んだことの無い人が一朝一夕に身につけられるものじゃない、と私は思っています。
 
 ちょっと飛びますけれど、図書館情報学者は謙虚じゃないとだめだよー。教育学者も。と、私はほんとうにそう思います。だって、他のディシプリンが独自に作り上げてきている研究"手法"を借りてきているんだからね、私たちは。歴史研究しかり、計量的、質的、社会学的研究しかり、心理学的研究しかり。
 謙虚であることが大事というのと同時に、私たちの学問ほど、他の学問の人たちとのコラボレーションが不可欠な分野はないのですよ、私の意見では。柴内先生みたいなきちんとした社会学者、河野哲也先生みたいなめちゃくちゃ勉強している哲学研究者、、、こういう人たちに助けてもらってというか、いっしょに仕事させてもらうことでしかできないことがいっぱいある、そういう分野だと思います。
 誰とコラボレーションしたらいいの、っていうのは、出会いのセレンディピティのマターであると同時に、この、インターネット時代、誰にだって、アクセスできるじゃないですか!そして、誰がこの分野で、教えを乞うべき人か、は、私たちは図書、情報を評価する力をもっている(はずな)のだから、著作を見ればわかるはずでしょう。
 昨夜の柴内先生が、どれだけ慎重に、周到に、データの解釈の語り、他者の研究の紹介をしておられたか。あの語り口、"dispositions in action"に、この方は「きちんとした」社会学者だ、っていうところをみなさん、ご覧になったと思います。

(2016.2.19追記)『カレントアウェアネス-E』No.298として、本学の博士院生の小出晋之将によるレポートが出ました。短いですが、当日の概要はわかりますので、ぜひご覧ください。当日の講演会のテープ起こしに基づく記録は、本学司書課程紀要St. Paul's Librarian(学術リポジトリ立教Roots)の30号にて、公開予定です。