IFLA@ヴロツワフ

 ポーランドヴロツワフに、2017年世界図書館情報会議で来ています。今年のはじめにポーランドに行くことにした時点で、この夏には来ない前提でいたのですが、実は、久しぶりに来年度、司書課程の中で新しい科目を担当することになりそうなので、それに関わって世界的な動向を勉強をしたいと思ったのと、打ち合わせの話が2件あって、考えを変えて、やってきました。すでに全プログラムは終わっていて、いろいろな状況を経験して、考えさせられていますが、今年は、ブログでそれをすぐに発信するというだけでなくて、秋に、他に2人の方を誘って、立教で、夏の国際会議の参加報告会を開催しようと思ってます。私以外には、米国アーキビスト協会(Society of American Archivists: SAA)に参加した方と、あと台湾図書館研修に参加される方に報告者になっていただこうと交渉しています。私のIFLAでのセッション参加報告はその機会にいたします。また告知を出しますので、お楽しみに〜
 それで、今年のIFLA会議でございますが、初日に"成就"的だったので、2日目以降どうなるかと思いましたら、今年はめちゃくちゃ楽しみました。学校図書館の分科会に、昨年のオハイオ大会もですが、一切行ってないので、それが理由かもしれません。単純に、自分にとって新しいことが多そうなセッションに、去年と今年は出ています。
 初日にすでに"成就"と思えたというのは、久しぶりに出た開会式の、特にパフォーマンスのクオリティが高かったということと、午後に、今回来た目的の一つであった、Libraries in Times of Crisis: Historical Perspectives - Library History Special Interest Groupのセッションが期待どおりの興味深い内容であったということでした。開会式のパフォーマンスは、地元のパフォーマンスグループによるものだったのだが、この街の2000年の歴史を七つに分けて、歌、音楽、ダンス、それに写真や画像のプロジェクションを背景に折々出して、というもので、とても現代的な、すごくクオリティの高いものでした。そこに、翌日、刑務所図書館見学会に参加して、最後に受刑者のグループのパフォーマンスを見せてもらいました。このレベルたるや、ちょっとそう見られないレベルで、やっぱり、パフォーマンス・アートの伝統がヨーロッパは違うなあと思いました。今日のところは、この刑務所図書館の話を書きますね。それで明日以降、今回、だいぶ図書館を見たので、ポーランドの図書館見学記を書きます。で、会議でのセッションについては、前述のように、秋に報告会をする場で。

 さて、今回訪れた刑務所図書館は、ヴロツワフ第1刑務所(Zakładu Karnego Nr 1 we Wrocławiu)というところの図書館です。20名のグループで行きました。特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会(Library Services to People with Special Needs Section)の企画でした。前回のポーランド訪問で、アウシュビッツであまりにショックを受けたこともあり(これこれに書いた、恥ずかしい内容だが)、ダークツアリズムというかは自分には向かないことが嫌というほどわかった気がしていたので躊躇して一度申し込みをやめたのですが、刑務所"図書館"は日本では普及していない状況が何年も気になっていたので、国内の実態もわかってはいないのだが、この機会を逃さずにポーランドの実践を見てみるべきだと判断しました。それで、刑務所に着いて(写真は入口の様子。同じ場所は内側から見ると有刺鉄線ずっと巻きついている)、セキュリティチェックを受けて塀の中に入ったとたん、猛烈に後悔しました。英語で言うところのI'm so nervous.な状態ですね。で、警察犬みたいな犬がいて、たくさんの刑務官の人たちがいてくれる、という状態で、一つ一つ鍵を開けてもらって中に入っていたのですが、どんどん辛くなってくる。で、最初に会議室に通されて、管理職の人たちにウェルカムのスピーチをしてもらったり、刑務所についての説明の3本のビデオ(ポーランドの刑務所制度についてのビデオ;訪問したヴロツワフ第1刑務所についてのビデオ;リクルーティング用か?というような刑務官の私生活と仕事について明るく説明したビデオ)を見せてもらったりして、質疑応答があって、という間にもう、は〜〜っていうような状態になっていて。。その後、刑務所内部のいろいろな部屋を見せてもらった。クリニック、歯医者さん、卓球台等のある娯楽室、外の家族等との面会室、8人収容の一般的な部屋(ヌードの女性のポスターらしきものが貼られていたのにシャツをおそらく急いでかけててきとーに隠していたのがウケた)、そして図書館といったところ。ちなみに私がいつも問題にしているおタバコですが、スモーカーとノンスモーカーは別別の部屋に収容される。スモーカーは自分の部屋でのみ喫煙可能ということでした。
 図書館は、ライブラリアン1名、そして受刑者たちが働いているというような話でした。冊子体の目録があるので、それを見てリクエストするという形で、受刑者が直接、図書館に来るという形にはなっていないということでした。すべての本に、茶色い紙でカバーがされていて、何の本かまったくわからないのがなんだかなと言う感じでした。横にいたハンガリーからの参加者にどう思った?と話しかけたところ、カバーをするのはいいアイディアだというので、なんでと聞いたら、ハンガリーで刑務所図書館に行ったときに聞いたのが、一番人気は聖書だと。なぜかというとその図書館の聖書がいい紙でできているので、タバコを作るのにいいのだそうで、ということだったから、まあそういうようなところだから、本を大切にするという考えがあるかどうかわからないし、汚れなくていいと思うよ、と。うーん。ちなみに、この図書館での一番人気は、ハリーポッターだそうです。なぜだろう......。イタリアの刑務所図書館で活動している参加者は、閉架という仕組みをとても残念がっていました。イタリアではそうではないらしい(以前も書いたけど、「塀の中のジュリアス・シーザー」という映画の舞台はイタリアの刑務所で、図書館も出てくる。youtubeに予告編あり)。まあ、図書館については、あるってことだけで、人権意識はやっぱりヨーロッパは高いよねということで、尊敬しかないわけですが、ヨーロッパの他国と比べてどうかというともう少し変えられる部分はあるのかなという感じがしました。でも、同じようなことを繰り返しますけれど、日本の人権意識ってやっぱり低いよねっていうことが、図書館が刑務所にちゃんと無いっていうだけでも、改めて実感されますね。ちなみに、イタリアもポーランドも、刑務所には図書館を置くと法律で決まっているそうです。イタリアのライブラリアンからは、学びなおしに読書は不可欠、と言われてしまいました。まったくでございます。彼女は、大学の教員ですが、刑務所に、読書の指導に定期的に出かけているということでした。それで刑務所を出るとなったらなんと、刑務所の航空写真の入ったマグカップを刑務所名の入った手提げ袋に入れて一人一人にくださいまして、何とも言えないお土産です。あまりにもレアで嬉しいというのが正直なところか。
 そこででは次はシアターに移動します、となりまして、私はてっきり刑務所内で見せてもらうのだと思っていたのですが、なんと素敵なミニシアターで、間近に、受刑者と元受刑者のパフォーマンスを見せてくださいました。いやもうこのクオリティがめちゃくちゃ高くて、びっくり。その予告編がyoutubeにありましたので、見てみてください。クオリティはすぐにわかっていただけると思います。で、これの最後に、4人のパフォーマーが手をこちらに力強く伸ばしてくるのですね。パフォーマンスが終わりなのかもわからないし、観ていた私たちは、その手を取りたいと思いながら、ためらっていた。そうしたら、そのイタリアのライブラリアンがいつものごとくゆーっくり立ち上がり、手を取った。その手をパフォーマーの方が自分の心臓あたりに当てたか当てないかというところで、なんと、二列目からアメリカ人の女性が飛び出してきてもう一人の人の手を取った。そしてアメリカ人の方もう一人。そしてドイツ人かな。なんというか、そうだよなーって。すごくお国柄が出ていたなーっていう4人だった気がしました(その場には11か国からの参加者がいた)。ステレオタイプ化みたいなことなので、これ以上は書きませんが。"世界"が見えた感じがしました。私は三段目にいて、とても降りれなかったですけれど、手を取りたかったなと思っていたら、終わって帰ろうとしたら、入り口のところにパフォーマーのうちの二人の方が立っていてくれました。thank you......ぐす、と手を取ったら、ほんとうに力強く返してくれて、笑顔が素敵でした。パフォーマンス後に一人のパフォーマーの方が、このワークショップ(英語の説明)をとおして自分は人間になったと思っているっていう発言を中心とする、スピーチをしてくれたんです。これがほんとうに感動的でした。他者が"矯正"という言い方をするのが適切かわかりませんが、彼が自分が変わったと思えていることがとても重要だと思いました。このパフォーマンスを見られただけで、ポーランドにまた来ることができてよかった、と思えました。人が変わるプロセスを身近に感じられて、シェアしてもらえて、最高の経験をしたと思いました。日本の"矯正"ももっと変われるのじゃないかと思います。人間の可能性を信じる、良心を信じるっていうところが重要なんだよね。そうそう。さっきのyoubuteにあがっている予告編の説明に書いてあるけれど、このパフォーマンスは賞をもらっているのですね(Winner of the 4th National Competition of Prison Theatre Art in Poznań (2017)、Grand Prix of the 26th National and 14th International Review of Prison Art in Sztum (2017))。さもあらんというクオリティ。youtubeにはもう一つ、このパフォーマンスのメイキングのドキュメンタリがあがってます(ここ)。図書館は映っていませんが、刑務所の中は各所映っています。私たちのグループは刑務所内の撮影は許されていなかったので写真もないですが、このyoutubeを見れば、けっこう雰囲気はわかります。まあ、映像よりもっと暗い雰囲気だったとは思うけれど。
 最後になりましたが、とにかく、こんな大変な訪問をアレンジしてくださったポーランドの方たちには、感謝に耐えません。ほんとうにありがとうございました。

 ほら、私、観に行ってるよ〜(ここのどこかに、い、いる...)

(2017.8.29追記)茶色い紙のカバーが刑務所図書館のすべての本に付けられていたことについて、このブログを書いた後で、アメリカからの参加者と話す機会があった。彼女は、プライバシー、つまりいっしょに暮らす受刑者間で何を読んでいるかがすぐにわからないように、という配慮の可能性もあるのではと言っていた。