立教大学司書課程HP公開!

 私としては,けっこうがんばりました。こちらです。と言いながら,実は新入生・在学生たちに配ってた文書をベースにしているのですが(笑)。でもでも,講師紹介や修了生・在学生メッセージはイチから作りましたぞ。みなさま,ご協力,ほんとうにありがとうございました。
 これまでの本学の司書課程はけっこうコンサバな授業内容でした。それが主として文学部の一部の学生たちにすごくウケていた一面もあったような気がします。でも,来年度から,ちょっと司書課程としてはめずらしいというか,おもしろい?,講師陣や授業内容に再編される感じかなって思ってます。ITと国際化を前面に出していく感じになります。4月に,思いっきり,公表できるときを楽しみにしています。
 今,科目等履修生の募集もしています。

何を読んだらいいのか,何を薦めるか

 いやあ,今朝,ビル・ゲイツのブログのエントリの多くが,彼が読んだ本の紹介だっていうことにやっと気づきましたよ。今日のエントリは,これなのだけれど,同じ内容を肉声で話して素敵なムービーにしてyoutubeにもあげてるのね〜。いいわ〜いいわ〜。こういうメディアを自由に飛びまわるかんじ,いいです。しかし,彼もいかにもシニアって感じになってきちゃってますねえ,昔からこの人そうなのかな,この現実と過去をしっかり見つめている感じ。もちろん,アメリカ人らしい,ビジョンのもち方もしているけど。イーロン・マスクが毎日,自身が想像する未来について語っているのと比較すると,かなり姿勢が違う(いちおう,イーロン・マスクに影響を与えた本を整理したウェブページも示しておきますわ)。本を紹介するという行為も,現代の若者からしたら,シニアの行為って感じじゃなのかなあ。紹介している本も,ベトナム(戦争)関連が複数含まれていたりして,世代が透けて見えるしなあ。日本のシニアが今,学生運動のころについての本を書いたり読んだりしてるのと同じ感じですかね。
 だけど,ビルゲイツがこうやって,じょうずに本を紹介しているのを見て,何冊か読もうかなと私は思ったから,やっぱりこういうのってじょうずな人がやると意味がありますね。何を読んだらいいのかわからない人って,自分はなったことがなかったけど(読みたい本が多すぎる),英語の本の世界となると,アメリカの本屋さんや図書館に日常的に出入りできるわけでもないし,どこに手をつけていいやらという感じがするから。(でも,これって,ライブラリアンのプロフェッションとしてのバランス感覚ある本の推薦,とは違うよね。)

 実は,今年度いっぱいで特任教授の上田修一先生がご退職で,来年度春,司書課程は新しい先生をお迎えして,またもや変化の一年になりますのです。それに関連して現時点で私にとって重大なのが,来年度の担当授業のシラバス書きなのですね。2014年に上田先生がいらっしゃったときに担当を離れた「図書館情報資源概論」を改めてもつことになり,最近ずっと,常になんとなく,そのことを考えています。あと,新規に担当することになる「図書館サービス概論」。新規であるこっちの方がほんとうは問題なのかもしれないが,なぜか「図書館情報資源概論」の方が大きく気になるんだよなあ...
 というのは,2013年ころの情報メディア,コミュニケーションの状況と来年,2018年の情報メディア,コミュニケーションの状況とが違いすぎる。そんなの知らないだろう若者には声を大にして改めて言うが,ほんとうに違う!何を薦めたらいいのか,そもそもこれからの図書館・ライブラリアンは本を選び,集め,評価し,薦めるべきなのか?

 話は変わるが,先日やっと,Hidden Figures(英語のHP)を観たのですね。ちなみにこの映画,ドリーム(日本語のHP)という邦題ですけど,それ,非常にmisleadingですからヤメテイタダキタイ。Hidden Figuresというのは,二重の意味があって,というか,アメリカの映画のタイトルはほぼすべて,二つの意味をもたせてあると思います。と,ここまで偉そうに書いたが,わたくし,Hidden Figuresについて言えば,その二つの意味のひとつ(obviousな方)しかさいしょわからなかった。人に教えてもらったのです,ハハハ(笑)。私が最初に理解したのは,隠れていた人たち,ってことですよね。figuresは人物って意味。もうひとつは,figuresには「数字」って意味があったのだねえ!そうでしたそうでした。数字がこの映画でどういう意味かを知りたい方は,ぜひとも映画を観てくだされ。
 いやあ,もしかしたら私にとって人生の一作かもしれん,というくらいの映画でした。フォレストガンプもめちゃくちゃ好きですので,やっぱりこの時代のアメリカを描いた映画が私は好きなんだなあ。Hidden Figuresもはじまって数分から,映画の最中ずっとグスグスと。最初は,主人公のアフロアメリカンの女性たちが1960年代の南部アメリカで経験している境遇のきびしさに泣いて,後半に向かうにつれ,主人公たちの強さと白人たちに少しずつわかってもらえていくプロセスが続いて泣ける。ううう...今もまた泣けそう(笑)。今年,Academy Awardsの作品賞受賞作で見たのは,今のとこLa La LandとMoonlightとHidden Figuresだけなのだが,三作かなり色合いが違って,ハリウッドの力がしみじみわかるような。La La Landは,やっぱりミュージカルの映画っていうのがすごいし,ライアン・ゴズリングの力を思い知らされる。Moonlightは,自分の偏見に気づかされた。マイノリティのマイノリティという存在がそれこそ,hidden figuresだった,私にとっては。で,長くなったのだけれど,とにかくHidden Figuresが感動だったので,もう原作を読むしかないと思って,久しぶりに英語の一般書を買ったわけですね。
 いやあ,もう,ほんと,やっぱり英語で一般書も読まないとだめだね,って改めて。英語はやっぱり時間かかるし,専門書だって読むべきものが読みきれていない状況だから,一般書,特に小説はまったく読んでいなかった。でも,英語の会話力って,一般書,小説を読まないと伸びないですね,ゼッタイ。
 ちなみに,英語の原作を読もうと思ったのは,これの前は,The Big Short(英語の予告編)(邦題「マネー・ショート 華麗なる大逆転(日本語HP)だったのだが,こりゃもう金融の専門用語がわからなすぎてどうにもならなかった。英語の一般書について言えば,私の生涯で,数千冊読むということはないだろうなあ。やっぱり読むものを選ばないといけない。ムズカシイ

連続公開シンポジウム「司書教諭資格付与科目の教育実践を検討する」全5回記録公開

 みなさま、とうとう、記録集にまとめることができました!立教大学学術リポジトリRootsからも見ていただくことができます(こちら)。豪華執筆陣ですぞ!!
 巻頭言に書いた以下が、私の今の思いです。

 周知のとおり、司書教諭資格付与については、学校図書館法および学校図書館司書教諭講習規程に定められておりますが、これらは日本が独立を回復した直後、1953 年と1954年に制定されたものです。それぞれ 1997 年および 1998 年に改正されたものが、現在の司書教諭資格付与課程について定めています。学校図書館法はその後、2014 年に再び改正され、「学校図書館の専門的職務を掌らせるため」の司書教諭の他に、「学校図書館の運営の改善及び向上を図り、児童又は生徒及び教員による学校図書館の利用の一層の促進に資するため、専ら学校図書館の職務に従事する職員」であるところの学校司書が定められることとなりました。その後、調査研究協力者会議の検討を経て、2016 年 11 月に文部科学省は「学校司書のモデルカリキュラム」を公開して、大学に対して、学校司書の養成への協力を求める通知を行ないました。日本の学校図書館には二職種が置かれ、養成が期待されるところとなっています。このモデルカリキュラムは、従来は教員免許状取得を前提にしていた司書教諭資格のための科目を、教員免許状取得を目指していない学生にも履修可能とすることとなっています。各大学が、「学校司書のモデルカリキュラム」を開講する場合には、教育の根本、前提が大きく変わることになります。
 
 司書教諭の資格付与の教育の検討がこれまで十分に行なわれてきたとは思われません。学校図書館について長年、モデルのように参照されてきたアメリカ合衆国では、養成教育の質の管理がさまざまな形で行なわれている一方で、日本では、資格付与科目の開設、変更、廃止にあたって文部科学省に対する届出の義務があるのみで、そのほかに“質”を点検する機会は設けられていません。本シンポジウムを企画し実施しはじめた頃には、「学校司書のモデルカリキュラム」は想定外でしたが、結果として、戦後の、「学校司書のモデルカリキュラム」との併置が検討される以前の、司書教諭資格付与課程の教育の実態の一面をここに記録することができました。
 
 最後になりましたが、シンポジウムの企画、実施を学外から熱心に支援してくださった足立正治先生に感謝申しあげます。また、貴重なお休みの週末に参加してくださった方たち、熱心に議論に参加してくださった方たちにも、御礼申しあげます。ありがとうございました。

図書館・文書館の国際動向 2017

 もう来週に迫っていますが,以下,公開で実施します。
 2017年の夏に開催された図書館や文書館に関する国際会議,研修会に参加した3名が,その場の議論や実践現場の国際動向を報告します。質疑応答の時間も長めに取りたいと考えていますので,ふるってご参加ください。事前申込不要,無料です。
  日時: 2017年11月24日(金) 18時20分から20時20分
  場所: 立教大学池袋キャンパス11号館2階 A203教室

  キャンパスマップはこちら。11号館はこの地図の右下に見えます。

【報告内容・報告者】
 第83回国際図書館連盟年次大会
 International Federation of Library Associations and Institutions World Library and Information Congress
  ポーランドヴロツワフにて,2017年8月19日から25日に開催 
  報告者:中村百合子(立教大学教授)

 第81回米国アーキビスト協会年次大会
 81st Annual Meeting of the Society of American Archivists
  オレゴン州ポートランドにて,2017年7月23日から29日に開催
  報告者:古賀崇(天理大学教授)

 台湾図書館研修2017
  台北,高雄にて,2017年9月13日から16日に開催
  報告者:原修(立教大学図書館利用支援課課長)

ヴァーチャル・リアリティと図書館

 今朝,通勤時に,スマホを見ていたら,フェイスブックCEOのザッカーバーグがプエルトリコの件で謝ったという記事が流れてきていた。フェイスブックは,ヴァーチャル・リアリティ(VR)にずいぶん投資しているそうなんですよね。でも,こういう記事に出ているように,現時点ではVRの装置の売れ行きはよろしくない。まあ,それでかね,ザッカーバーグは必死なのかなって思います。もちろん,フェイスブックがすべてVR化されたら,おもしろいだろうけれど,そこにいきなり行くって状況じゃないのかね。で,フェイスブックはデモでプエルトリコのハリケーン・マリアの被害を体験できるものを作って公開し,VRは「共感」を広めるとザッカーバーグが言った。だけど,そのデモの最後にザッカーバーグと同社のレイチェルっていう役員のアバターが交わす会話が以下。

“Do you want to teleport somewhere else?” Zuckerberg’s VR avatar asked as he wrapped up his conversation about Puerto Rico. “Yeah maybe back to California?” another executive answered.

つまり…プエルトリコについての会話をまとめるにあたって,ザッカーバーグアバターが「どこか他のところにテレポートする?」と聞く。「そうね。カリフォルニアに戻りましょうか?」と役員が応える,と。ずいぶん気楽にプエルトリコの大変なところに行ってたもんですね,と誰でも感じるのでは?
 「これどうよ。倫理観ゼロ」とある人にこの記事のリンクを送って意見交換していたら,相手方から,「<カタルーニャ>独立宣言は保留 中央政府との対話を模索へ」という新聞記事へのリンクが送られてきた。で,私が言ったのが,「バルセロナ独立運動ににぎやかしでVRで参加したらおもしろいかもね」(注:ジョアンとは昨年,バルセロナから本学に来ていた彼であります。彼から,先月末に,300年のスペインによる支配を終わらせる云々というメールが来ていた)って,これぞまさに倫理観ゼロ発言。要するに,VRみたいな新しいコミュニケーション・テクノロジーが私たちに要求しているのは,ほんとうに倫理観であり,倫理教育なんだと思ったわけです。共感をVRが育てるか,よく研究したり,議論したりする必要がありそうです。

 先週の木曜日にハーッシュ先生が来日され,翌日には学内で講演会を開催,おとといの月曜日には学生たちと"Conversation with Dr. Hirsh"という自由な会話の場をもちました。来週の19日には,学内講演会とほぼ同内容を予定している公開講演会を開催(詳しくはこちら),20日には学内で学生たちと"Conversation with Dr. Hirsh"その2をいたします。で,先日の講演会の中で,VRの話も出てきたのですね。軍の訓練では導入されて久しい,とかね。これも倫理観に関わってきますよね。軍の訓練で,実際に戦場にいるかのような臨場感をもって,銃を撃つ練習をしているとかっていうことですので。でも,VRは,私は,避けられない,テクノロジー発展の方向かなと思ってます。この夏,IFLAの会議でも,VRと図書館の関係についての発表を聞きました。その内容については,11月24(金)夕刻に本学で公開でまたイベントをする際,少し私から報告しようと思っています。

サンドラ・ハーッシュ先生

 このたび、立教大学司書課程では、サンノゼ州立大学情報学研究科長のサンドラ・ハーッシュ(Sandra Hirsh)先生を本学の招聘研究員としてお招きすることができました。10月の三週間、日本に滞在されます。
 彼女は、『Information Services Today』という本を書いて、世界的にも著名になった方ですが、図書館勤務経験に加えて、10年ほどシリコンバレーで働いた、そのうえで図書館情報学教育の世界に入られた方で、アメリカの図書館情報学の研究者・教育者たちの間でもちょっと目立つ経歴の方だと思います。企業勤務経験者は日本の図書館情報学みたいに少なくは、アメリカはないですが。
 学内で学生向けに3度、イベントを開催しますが、学外でも、本学司書課程の前・特任教授の永田治樹先生が所長を務めておられる未来の図書館研究所で、10月19日(木曜日)の午後に公開講演会を開催する運びとなりました。今朝、私の手元にスライド案が届いたのですが、すごく魅力的です。日本でこういう話をできる図書館情報学者はいないのじゃないかなって思います。し、これがこれからの図書館の方向性だろうなと思います。公開講演会は事前申込み制なので、こちらから申し込んでくださいませ。ちなみにこの研究所の、こちらから読めます「動向レポート」はおもしろいです。
 サンドラは、今、お話を聞くべき、世界の図書館情報学者の筆頭の人物だと思ってます。正直、彼女の考えているようなことを聞くと、日本の学校司書だなんだの話って、ほんと近未来のメディア環境を無視しているのではという気がしてならないですわ。

IFLA@ヴロツワフその2

 今回、けっこう図書館を見ることができました。まあ、ヨーロッパですので、図書館の数が日本の比じゃない。このヴロツワフの中心部で言えば、大人なら歩いて行くことのできる距離に複数、公共図書館があります(どのくらい歩ける人かによるわけだが、徒歩15分圏内に3館はある)。今回私が見たのは、大学図書館が2館、公共図書館がオポーレ(Opole)という隣町で3館、このヴロツワフで3館、そしてヴロツワフ学校図書館3館、教員向けの図書館1館を見ました。結論から先に行ってしまうと、ポーランドの図書館はまさにこの数年で急激に変化、発展してきているのだろうというのが私の印象です。しかしそれは、基本的には建物の話と、活動内容の話ですね。コレクションの充実にはまだまだ資金投資が必要そうです。学校図書館に関わっていえば、公共図書館の児童サービスがけっこう充実している気がするので、まあ財政的に後者に集中投資されているのだろうなっていう印象でした。この急激な発展は、IFLAの開催地になったことと無関係というのはあり得ないのではと私は考えています。旧共産圏ということで私の見方にバイアスがかかっているかもしれませんが、この5年以内くらいで開館したという話が多すぎる気がしました。
 でも、驚くのは、どの図書館に行っても、"人"、つまり(教)職員は配置されている。ロシアに行ったときもそんな気がしましたが、いっぱんに人件費が安くて(=お給料が低くて)、でも仕事はしやすくて、特に女性が、そんなに不満もたずに、図書館や学校で働いているのだろうなという感じがしました。四つの学校で会った教職員は、管理職を含めて全員、女性でした。オポーレの図書館で出会って親しく話すことができた三人(女性二人、男性一人)にお給料のことを聞いたところ、一人暮らしはできないので家族か友だちと暮らす、とか、仕事をかけもって一日11時間12時間と働いている、とか、文化を仕事にしてお金が稼げるということはない、とか言っていました。ポーランドの男性はイギリスなりドイツなりにたくさん働きに出ているのですよね、もちろん、国外に働きに出るのが男性と決まってはいませんが。フィリピンと同じ感じなのかなと。優秀でも仕事がない、意欲的で事情が許す人は思い切って先進国に出てしまう。そうすると残ったメンバーでやる限界がある、という(ほんとにあるのかわからんが、残った人はやっぱりがっかりする)。もっとも、こういう話は日本国内の東京一極集中と同じような話かもしれないですね。ちなみに、ポーランド人は、私くらい、つまり40代半ばくらいかね、は、学校で英語を一切学んだことがないそうで、みなさん苦労して学校や図書館について説明してくださいました、多謝〜。電車の中で、60代と思われる男性にドイツ語はできるかと聞かれたことから推測すると、ドイツ語をみんな学んだのですかね。もしくはロシア語???でも、20代や30代前半くらいの子は、簡単な英会話はできます。けっこう流暢に話す子も少なくないです。
 
 大学図書館は、IFLA大会のオフサイトの会場になった二つを訪れました。一つはヴロツワフ大学の図書館だったのですが、この大学の図書館は複数の場所(建物)に分かれていて、私が行ったのは一番新しい建物(グーグルマップへのリンク)で、見た限りでは一冊も本がなくて、雑誌架はありましたが、大半がコンピュータの並ぶ部屋や会議室でした。もう一つは、ヴロツワフ工科大学の図書館で、こちらも私が見た範囲ではほとんどコンピュータの並ぶ部屋と会議室でした。両方とも、新しくてきれいでしたけれどね。ちゃんとしたツアーをしてもらったら、もっと違うエリアもあって見ることができたのかもしれませんが。
 ご存知の方も多いと思いますが、IFLAの大会はたいてい最終日翌日が図書館見学会になっていて、複数のツアーが同日に行われるのです。一つしか選べないので、学校図書館しか私はたしか選んだことがないです。それで、別の図書館は自力で行くことになります。今年、ツアーの中に、ヴロツワフの隣町(特急で1時間)が選択肢に入っていました。香港人の会議に飽きた友人が、最終日の閉会式じゃなくて、その街に行ってみようよ、というので、お供することにしました。このオポーレという街には、大学も複数あって、ヴロツワフほどではもちろんないですが、けっこう大きな街でした。この街に行こうとすると、ヴロツワフ中央駅から特急(IC)に乗るのですが、そうするとその駅にできたばかりの公共図書館にも寄れていいじゃないといって出かけました。これが大当たり。図書館で話しかけた人たちがほんとうに素敵な人たちで、正直にいろいろ聞かせてもくれて、いい出会いでした〜感激〜。ツアーで行ってこそしてもらえる説明もいっぱいあるのですが、個人的に話しかけてこそ聞ける話もいっぱいあるのですね〜。もちろん、ワルシャワとはここは違うと思います。ヴロツワフとオポーレもたぶん違う。オポーレくらいの大きさの街だと、外国人が来て、話聞かせてって言ったら、できるかぎり付き合ってくれるって感じなのかなと思います。とにもかくにも、素敵な人たちでした。
 訪れたのは、オポーレ県立図書館オポーレ市立公共図書館です。日本の市立図書館と県立図書館の関係と同じのように聞こえました。県立図書館は県内に4館あるということでした。市立図書館は18館。オポーレ中心部にある県立図書館は歴史的な建物で、狭くなってきたので、新しい建物を県に要求していると言っていました。私が話したのは、ポーランド史と英文学を学んだ二人で、共に女性。少なくとも英文学の方は博士号をもっていると言っていました、30歳前後かな。冗談みたいに言ったので確信がないのですが、ポーランド史の方も博士号もちみたいでしたが、少しだけ若い感じでした。大学時代から知り合いだったと言っていましたが、英文学の彼女が先に図書館に就職したと。二人とも、図書館情報学の学位はないと言っていました。ただ、私たちはbibliographyが分かっているので、と言っていました。どういう資料があるかと調査法はわかっているから、利用者の高度なレファレンスも対応できるし、展示会等の企画もいいものができる、というようなことだったと思います。ポーランド史の方は、今、歴史的なポスターを集めた企画展示の準備をしていると言っていました。展示をしたら、それはそのまま捨てることはしなくて、県内の図書館に貸し出していると言っていました。私が見せてもらった範囲からの理解では、この図書館は4階建てで、隣にあと二つ別の建物がありました。メインの建物1階はパソコンとCD、DVD等のマルチメディア、2階から3階は閲覧室と開架、4階は閉架でした。もう一つの建物は、1階は展示室で、一般市民に無料で展示の機会を与えているとのことでした。2階より上は県の事務のオフィスがあると。それで地下は小さな講習室と宿泊用の部屋(お風呂とおトイレ付)でした。宿泊用のお部屋は、外に直接つながる場所にあって、講演会があったりすると、市の中心部だし、喜んで講演者が泊まると言っていましたが、なにしろ歴史的建造物なので、気味が悪い感じが…(笑)。そして、もう一つ別の建物に、印刷の部署があって、図書館のチラシやポスターはここで印刷してもらうと言っていました。どのチラシもポスターもセンスがいいと思ったら、デザインの専門家がいるということでした。
 オポーレ市立図書館は、中央館と分館2館を訪ねました。この3館を歩いて訪ねたので、ヴロツワフ市内と同様、歩ける範囲に3館は図書館があるということですね。しかも県立図書館も含めれば、4館ですね。市立図書館本館は5年前にできたそうで、この中央館の建築はすばらしかったです。私が過去に訪れた図書館で建築が忘れられないのが、マルメの図書館ですが(そのときのエントリはこちら)、それと同じくらい記憶に残りそうです。ヴァーチャルツアーがこちらにあがっていたので、ぜひ見てみてください。職員は利用者がいないときもカウンターで仕事をしていて、これはスペインの新しい図書館のトレンドと同じだなと思いました(バルセロナでの調査報告はこちらから)。
1階にはセンスのいいカフェがあって、香港人の彼女がその香りに、Just I cannot resist!ということで、飲みましたら、これは今回の旅の中でいちばん美味しい珈琲でした。お菓子も美味しかった!美味しいって重要だよね。1階はあと講習室と展示室でした。図書館に、カフェや文化的なイベントに来て、上の図書館ゾーンには行かないで帰る人もいていいっていう考え方でしょうかね。入口には返却のための機械(無人)もありました。この図書館でいいなと思ったのが、数少ない閲覧席が川と緑が見えて書架のちょっと奥まったところで、すごく快適なのですね(この図書館のインスタの写真をぜひ見てみてください)。あと、児童室(写真参照)、マルチメディアの部屋(続けて写真参照)もすごく雰囲気がよかったです。いや、雰囲気はどこもすごくいいのですよね。パソコンがたくさんあるのはスペシャルコレクションの部屋なのが面白かったですが、カウンターで古いカトリックのカードの目録作業をしていた職員の方を見ていたら、コンピュータの利用登録作業と並行して目録作業をしているようでした。すごく合理的だなと思いました。その職員の方はおそらく20台の男性で、聞いてみたところ、図書館情報学を学んだことはなくて、学位は音楽で、以前はミュージシャンだったと言っていました。以前は図書館学を修めていないと市立図書館では働けなかったが、数年前に変わったとも言っていました。整理中のカードをいろいろ見せてくれたのですが、これは同館を退職した人が長年集めていたものを寄贈してくれたのだが、数百前のも含まれているよ、と言っていました。けっこう気軽な感じで管理していて、さすがヨーロッパは百年、二百年くらいじゃ、それほど古いうちに入らないのだなあと。興味深かったのが、この彼が、「カトリックは歴史だ」と言ったこと。あともうひとつ、この図書館で興味深かったのが、マルチメディアの部屋に漫画のようなものもけっこう置かれていて、そのうちの1冊を手に取ったら、かなりどぎつい性行為の描写があったのですね。香港の彼女と、どうなの?という話になって、一人の職員の方(この方も20代に見えた)が近くに来たので、「これっていいの?受入前にチェックしてる?」と聞いたら、笑って、「うん、問題ない」って簡単に答えられてしまった。We are from Asia.とか言って、私たちの国だと利用者が何か言ってくるかもしれないねーって香港の彼女と話しました。かなりリベラルそうです(北欧やドイツと同じ感じですかね)。このカトリックは歴史、というのと、リベラルな選書と、で、私はポーランドの今の変化の大きさ、急激さ、ジェネレーションによる考え方の違いを強く感じました。共産主義の時代にも、カトリックを維持できたポーランドが(ヨハネパウロII世が選ばれたのはポーランドカトリックを守るためだったという説もあるが…)、今度こそ、カトリックを捨てることになるのか?!この話題、香港人の彼女は、「近代化した社会はそうなる」の一言で済ませてましたが。
 さて、この後、この場所の図書館にグーグルマップを手がかりに行きました。そうしましたら、グーグルマップの写真となにか違うのですね。あとで聞きましたら、以前は、この場所におもちゃの専門図書館があったそうなのですが、おもちゃは5年前にできた中央館の児童室に統合されたそうです。それでこの分館は基本的に本、そしてイベントを担当する、児童、ヤングアダルトサービスの市立図書館分館になっていました。しているようでした。声をかけた職員さんが、20代後半かなという男性でしたが、彼はなんと、“creative pedagogy”(「創造性の教授学」と訳せる?)を専攻したそうで(図書館情報学ではなくて)、子ども向けのイベント、ワークショップ等の企画はお手のもの、みたいでした。この夏にやっているイベントは政府(国のようでした)からお金が出ていて大きなものだそうで、船の上で読書するというようなアイディアで、この地域の子どもたちについては彼が子どもたちを連れだしているのですって。そのときのビデオを見せてくれました。川に大きなボートを出して、子どもたちはその上で本を読んでいました。この分館はちょっとした坂の上にあるのですが、行くときに、私たちが上っていたら、図書館の側から数十人の子どもたちが歩いてきました。幼稚園かなあ。で、彼と話していてわかったのが、私たちが来る直前まで、その子どもたちがクラスで図書館を訪れていたそうなのです。この話を聞いていたので、翌日、ヴロツワフ市内の学校図書館のツアーが終わった時点で、公共図書館の数が多いし、子どもたちを公共図書館に連れていくというベクトルで過去は考えられていて、あまり学校の図書館は発展してこなかったのね、と私は思いました。上の写真はこの図書館のお部屋の一つ。そしてマンガのコレクションです(ディズニーもあり)。
 この後、親切な彼が、もう一つの分館に案内してくれました。グーグルマップのこちらです。旅行に関する資料を充実させた図書館とのことで、それ以外は一般的な読み物や児童サービス、イベントなどもやっているということでした。団地の2階にありました。そうやって話を聞いているうちに、ポーランドでは、公共図書館は主題ごとに分担収集のようなことをしているのだなということがわかってきました。これは実は、翌日、学校図書館のツアーで、高校の図書館3館を見せてもらって、高校も似たような構造になっていることを知りました。ひとつの学校は医療・心理コース、もうひとつの学校は演劇のコースが強いと言っていました。どの学校にも複数のコースがあるそうなのですが、伝統的にこのコースに力を入れている、というのが各学校にあるようでした。まあ、共産圏の教育のやり方ですかね、専門性を分担するという考え方は。ちなみに、この旅行の資料が充実する分館にも案内してくださったcreative pedagogyを学んだ彼は、教会に行っているけれど、みんなは洗礼は受けていても教会には行っていないよね、と言っていました。ふむ。
 これでオポーレからヴロツワフに戻って、この日のうちに、駅舎2階にこの5月かな?にオープンした図書館に駆け込みました。歴史的な建物に公共図書館が新しくできて、とってもいい雰囲気でした。資料も新しいものばかりでした。駅舎2階は以前は政府や企業のオフィスが入ったりしていたみたいです。それを図書館に変えたということですが、利用者がどのくらいなのかは、今、開館したばかりで夏休みになったので、また9月以降にならないとわからないなあと言っていました。あっ、ちなみに、オポーレに大学が二つあったので、訪れてみましたが、両方とも図書館は閉まっていました。なんと、ポーランドでは8月は丸々、大学図書館は閉館するそうでーす。なんとも…

 さて、翌日はIFLAによる企画ツアーで、教員向け図書館1館と学校図書館3館を見ました(ここに出ているうちの、半日のツアーの3番です)。が、みなさん、40代から50代の方たちが対応してくださったので、英語がよく通じないということがあって、確信をもって理解できたことが少なくて、ここに書けることがあまりない気がします。ただ、教員向け図書館は、教材や教育方法の研究のための図書館ですが、けっこう充実している感じがして、いいなと思いました。学校からインターネットで資料を検索して取り寄せもできる。あと3館は、すべて高校の図書館だったので、小・中の図書館は未発達かなと思いました。これらの高校の資料は古いものが多くて、新しいものはほんとうに少なかったです。ただ、どこも、文化的なイベントはいろいろ企画しているみたいでした。必ずしも読書に関わるものじゃなくても、生徒たちが図書館に集まってくるような楽しいイベントを企画・実施しているのだなと思いました。あと少しみんなが話題にしていたのが、図書にラベルが貼られていないこと。探しづらいよね、とみんなが言っていましたが、要するに、資料の数が2万冊とかいうところで、ある程度、分類はされているので書架を見ていけば探せるし、そもそも古い本がほとんどなので、新しいものを手に取ろうとするならすぐに見つけられるし、だいたい本があまり動いていないから問題ないのではないか、というのが私の推測です。といったところで、学校図書館は、今回見た3館は選ばれし学校だと思いますが、まあ、それでこれだと残りについては推して知るべしというところです。これからの発展が期待されている、というところですね。
 このツアー終了後、市の中心部にある二つの公共図書館をものすごい駆け足でですが、訪問しました。一つは広場に面した図書館(グーグルマップのここ)。もう一つはMediatekaという図書館です。広場に面した図書館は、このHPの説明から理解するに、おそらく県立図書館だと思います、ドルヌィ・シロンスク県の。とにかく、ええっこの立地!?という、立地に驚きですね。超一等地じゃないですか。中身は、写真でも見えるかもしれませんが、アメリカとフランスの国旗が入口に飾られているように、外国についての資料を中心とした図書館になっていました。アメリカ、フランスの他にも、ドイツ、韓国等が支援してできたようです。児童室も、他の文化を知るというテーマになっていました。オポーレ市立図書館でもそうでしたが、児童室には必ず、子ども用の机の上にはクレヨンや紙があるのです。そしてゲーム(ボードゲームだけでなく、ソフトも)やおもちゃのコレクションがある。左の写真を見てください。古い施設でもこんな雰囲気です。いいですよね〜。私が見学した公共図書館はどこも、幼児がたくさん来てただ遊んでいました(本を読んでいるわけではない)。でも、思ったよりこの図書館、使われていない感じがしましたね…この図書館を見た翌日に会ったIFLA大会参加者の一人も、そういう印象を受けたというふうに話していました。要するに、日本にあるアメリカンセンター、アテネフランセゲーテインスティテュートが一つの建物に集まった感じなのですが、日常的に利用するところじゃないっていうことですかねえ。
 Mediatekaの方は、名前のとおり、CDやDVDを中心とした図書館で、でもここも建築がなかなかよかったですね(ぜひこの図書館のインスタグラムを見てください)。狭くても、イベントスペースも設けてあって。とにかく、今回、ヴロツワフとオポーレで図書館を見て思ったのは、少なくとも近年建てられたりリノベされたものについては、図書館建築とインテリアがものすごくセンスがある、ということ。それはオポーレに一緒に行った香港の彼女も言っていました。インテリア、デコレーションがすばらしいと。文化的なイベントをどんどんやっているところといい、図書館建築といい、ドイツ的なのですかね。ヴロツワフもオポーレも、ドレスデンまでドライブで3〜4時間というところですし、いろいろ情報が入って来るでしょうね。

 このあとは番外編のような話ですが、図書館見学ツアーの翌日にはいつも帰国しているのですが、今回、ポーランド航空が飛ばない曜日だったために、ぽっかり空いてしまいまして、IFLA大会のポストコンフェレンスの観光ツアーに乗りました。はじめてこういうツアーに乗ったのですが、すごくよかったです。まず、IFLA大会参加者と改めて出会えるということ、それから、やっぱりその地域を知るということは重要だなと実感しました。今回乗ったのは、地元つまりドルヌィ・シロンスク(Lower Silesianを意味するポーランドの呼び方)を巡るというツアーで、ポーランドで3番目に大きいというクションシュ城(Książ Castle)と、世界遺産の木造建築のプロテスタントの教会、シフィドニツァの平和教会(Peace Church in Świdnica)を訪れるというものだったのですが、この二つとも、もっとPRして人呼べるよ!と言いたくなるような、興味深いものでした。お城の方はですね、おもしろいことに、個人所有だったもので、つまりオーナーが王様ではなかった。豪族ですな。で、このお城の戦前最後の所有者だった家族の歴史が激動で、スキャンダラスで面白くて、かつ、戦中にこのお城がナチスに占領されたと。で、ナチスドイツが地下にものすごく長い、えっと、500mだったかな、のトンネルを掘っちゃってまして、ここに金塊を隠していたらしいという噂で数年前に騒ぎになったりしている(ガイドさん曰く、これは仕組まれた騒ぎ、つまり観光のためのプロモーションだったのではとも言われているらしい)。このお城は行ってみる価値がありました。
 このお城の中で私たちを案内してくれたガイドさんがこれまた20代と思われる若者で、彼が、お城の4階5階が整理ができていないからと公開されていないのに対して、ガイドたちはダークツアリズムとして公開すべきと主張している、と言ったので、私はとうとう、やっぱりなあ、と思いました。今年に入って2回、ポーランドを訪問した範囲の理解でですが、この国で、特に若者は、もう開き直って自分たちの歴史をダークツアリズムでアピールしちゃおう、と思っている気がします。もちろん、ふざけた態度ってわけじゃなくて、なんていうか、やっぱり、第二次世界大戦(から冷戦時代)がいまだ生々しい国ですから、今の20代がはじめて、共産主義の終わったポーランドに生まれて、国全体として少しずつ20世紀の悲しみから脱却しようとしているのじゃないでしょうか。日本人は高度経済成長を通じて、戦争のこと、敗戦のことを、忘れよう忘れようとしてきた。例えば、私の両親は戦争をしっかり覚えている世代ですが、子どもたちにそれを語るということは、聞かれない限り、自ら積極的には、少なくとも日常的にはしないという態度でした。それでも、子ども3人とも、話は聞いてきたし、彼らが戦争で受けた傷はある程度、認識していると思います。ただ、表向きには、日本は、みんなで、基本的には過去を忘れて、未来を、”発展”を追い求めてきたわけですよね。子どもたち、孫たちに戦争のない、豊かで(貧乏ではなくて)幸せな社会を残したいと祈ってきた。いっぽうで、ポーランドは戦後はロシアの圧力の下に置かれ、経済発展という形で一気に方向転換とはいかなかった。ツアーのガイドさんにバスの中で、ポーランド人はドイツとロシアのどちらに好ましい感情をもっているか、という趣旨の質問をした人がいたのですね。それに対するガイドさん(30代かな、男性でした)の答えは、もちろん、Red Armyがポーランドナチスドイツから解放してくれたということはあるが、ロシアは共産主義を押しつけてきたわけなので、結局のところ「それぞれの家族の経験による」というものでした。おじいちゃん、おばあちゃんが戦時中から終戦の時、戦後にどういう経験をしてきたか、が家族の中で語られるので、それによると思う、ということでした。このツアーは、チェコの国境近くまで行くものでしたが、ヴロツワフからわずか1時間のドライブでした。ポーランドがいかに隣国に囲まれているか(まあヨーロッパはどこもそうなのですかね)。このドルヌィ・シロンスクという地域、私はワルシャワより好きになりました。たぶん、政府(国)から一定の距離があるからですね(地理的かつ心理的に)。地方都市の魅力を感じられ、きっとまた訪れたいと思うようなところでしたぁ。

(2017.8.29追記)私が話すことができた、オポールの図書館で働いている人たちが全員、図書館情報学を学んだことがないという人たちだったことについて、これを書くつもりだったのを忘れていました。私は、それはいいことじゃないかなーって思いました。図書館情報学を専攻した人も働いているみたいだし、一部の職員は学んだことがなくてもいいのじゃないかなと。これは、図書館情報学の教育の欠落を認めることにもなるのかもしれないけれど、高度な主題専門性とか、音楽とかデザインとかの能力、今の図書館ですごく重要だと思うのですね。特に音楽やデザインは、今の日本の公共図書館の職員にも必要だと思う、絶対に。最近、司書課程ができることって、あるなあと強く感じています。