連続公開講座を企画したのは・・

 過去10年ほど,学校図書館について,いろいろな集まりの企画者,呼びかけ人になってきましたが,今回,移ったばかりの立教大学で早速,"連続"公開講座を開催することにしたのは,3.11後,自らの過去の社会的活動についてさまざま考えたことを,まずはひとつでも形に,行動にしようと思ったことによります。特に,3.11後,「情報の専門家(専門職)」を自称してきたはずの図書館の専門職の私たちが,ほとんど,その意味での社会的活動をできなかったのではないか,できていないのではないか,という反省があります。少なくとも私は,できていませんでした。私は,情報の渦の中で,翻弄されていました。私たちは情報を評価する(特別な)力をもつということを,図書館の専門職の専門職たるゆえんとして主張してきました。公的な資金を使い図書館が受け入れる資料や情報を選択する職務を果たすのに,それを任せてもらえるだけの力が私たちにはあるのだ,と私たちは主張してきたと思います。もっともこの主張は,図書館専門職が確立しているとは言えない日本では,主張はしばしばされても,社会的に認められてきたものかどうかはわかりません。実際,無料貸本屋と呼ばれてしまうような図書館運営にあっては,図書館のコレクション形成(構築)はもっぱら利用者のニーズに依っているという現実があったかもしれません。しかし,司書課程・司書教諭課程で授業を担当してきた私は,それらの資格課程で,資料,情報を評価する,資料,情報を選択する,という力を,専門的知識・技術のもっとも重要なもののひとつとしてきました。私が執筆したり出版に携わったりしてきたもののすべてで,そのような考えが提示されていたのではないかと思います。その責任を感じます。
 このことを考えはじめたときにまっさきに浮かんだのが,『インターネット時代の学校図書館』という本のことでした。この,私が編者を務めた本では,各所で「評価」を語っていますが,特に第6章では,インターネット上の情報の評価方法について,またその指導について,簡単な指針を示しました。例えば,ドメインによる判定,go.jpはco.jpのサイトよりも信頼度が高いというようなこともここで示していました。特に子どもたちに教えるために一定程度の簡潔化をする必要があったとはいっても,これで本当に情報の評価,判断を教えることについて,正しい指針を示していたのか,と,今になると深刻な過ちをおかしていたように思われてならないのです。
 専門職は,自律した判断をすること(autonomy)が基本と言われます。日本ではこのことはよく「図書館の自由」の実践で意識されるように思いますが,今ここで書いている問題も「図書館の自由」と関係しているのですが,図書館の世界の言葉にとらわれないで考えてみたいと思いました--情報についての判断を自律して行う,とはどのようなことを言うのでしょうか。そしてまた,この問題は,私たちが情報の専門職だから考える必要があることではないように,思うのです。子どもたちに,このことについてどう語りかけたらいいでしょうか。
 このようなことを延々延々考えて,「(緊急企画)情報リテラシー教育に携わる人のための連続講座「情報を評価し,判断する力をいかに育むか」」の企画に着手しました。この企画には,5月から,3ヶ月がかかりました。足立正治先生には,私が転職後の落ち着かない時期に,辛抱強く,企画作業におつきあいいただきました,ありがとうございました。結果,次のとおりのすばらしい講師陣での講座が実現する見込みとなりました。
 第1回 2011年 9月24日(土)15時~17時  中尾ハジメ氏(京都精華大学教授) 「知性の自由」を求める教育  
 第2回 2011年10月29日(土)15時~17時  影浦峡氏(東京大学教授) メディアとメディアリテラシー論者と図書館:3.11後の放射能「安全」報道をめぐって  
 第3回 2011年11月26日(土)15時~17時  和田敦彦氏(早稲田大学教授) 読書の歴史から学ぶ・教える 
 第4回 2011年12月17日(土)15時~17時  小玉重夫氏(東京大学教授) 情報リテラシーとシティズンシップ 
 第5回 2012年1月28日(土)13時〜17時を予定 (まとめ)第1回から第4回の受講者の代表者が中心となってのディスカッションによって構成する予定
 明日以降,ブログで,講師の先生方をご紹介しながら,企画の趣旨をもう少し丁寧に書き留めておこうと思います。